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理療教育課程一年 哲
この朝もチャイムと共に目が覚めて三療めざし友と教室へ
目を病みて友に救われ国リハへ三療めざしはや六ヵ月に
目を病めるわれにできるかボランティアいつかしてみん視力あるうち
理療教育課程一年 信雄
国リハの垣根のなかで生き生きと一日学ぶわが人生よ
暗闇の世界に浸りしはや十五年心に誓う立派な人生
国リハで一緒に学ぶよき友と過ぎし月日もはや半年に
ひっそりと暗きところに棲むという貝の如くに生きてゆきたし
理療教育課程部一年 誠治
生きる道断ち切られてはや六年いまだに見えぬこれからの道
理療教育課程一年 広志
目を病みて三療学ぶ友多しわれ励まされ向かう学舎に
虫の音に耳傾けし友一人話をとめて共に聞き入る
釣りに来て思わぬ大漁竿休め空の青さに思う故郷
理療教育課程一年 朝子
目の前に舞い散る木の葉にわれは思う心を遠くきみに届けたし
タンポポの花にて思う幼き日母と手をとり山登りしこと
理療教育課程一年 永久
同窓会の誘いを朗らかにわが受けて目を病みいると友には言わず
妻や子と離れて暮らす無事を告ぐ電話の声に心安らぐ
理療教育課程一年 健夫
暗闇の世界におりし我なるにあはきの道に光り見いだす
手を引きし友と別れて振返る何事もなくたどり着きしか
理療教育課程一年 良和
五年間鍼灸学ぶ生活にわれ戸惑うに秋風が吹く
理療教育課程一年 清司
四月過ぎ通うと決めた国リハに向かう足取り重くなりつつ
雨の音聞こえる朝の月曜日言訳考え押すプッシュホン
夏終わり落ちる夕日の早さ知り帰る道のり遠く暗く
理療教育課程一年 頼子
田舎より送られきたるモロコシを伯母思いつつひとり食べたり
久しぶりに逢いたる姪に手を引かれ肩の高さにわれは驚く
理療教育課程一年 修二
健康を金にて買えぬ貴さをわが気づきしは目を病みてより
鍼灸を学びつつ今思いしは白杖もたず歩いてみたし
理療教育課程二年 猛
中庭のベンチに腰かけひとときの思いめぐらすわが人生に
妻子待つわが家に帰り思いしは天より愛の与えられんこと
身体に障害をもつわが友は活躍をせしアトランタの地
理療教育課程二年 武志
休日のことこまごまと語りいる友らに交じる憩いのひととき
十六夜の月覆いつつ雲流る武蔵野の秋とみに深まる
麦の穂の黄ばめる畑細き道穂にうづもれて一人通れり
理療教育課程二年 尚文
何くそと点筆握る五十音がむしゃらに書く暗闇の中
ぽつぽつと拾い読みするわが指に点字の文字を今日の日もまた
理療教育課程三年 国男
ある朝に高校生が英会話五十路の我も経穴となうなり
にわか雨コーヒー飲みてまだやまずケーキたのみて午後の雨宿り
理療教育課程四年 利幸
虫の声聞きつつさみし秋の宵君を思える独り身さみし
天高くこだまする声は秋祭り思いてみれど神輿はかつげず
故郷を思いいづれば野山にも清き空にも虫たちも飛ぶ
理療教育課程三年 佳代
木犀の香に包まれし七年去り君は知らずや我眼病みしことを
手鏡に写る我に眼を閉じて勘を頼りし赤き紅さす
杖突きて独り歩きうつむけばバイクの音に我をだぶらす
理療教育課程三年 勝久
タンスより父の形見のベレー帽そっとかぶって思い出しのぶ
木枯らしが落葉集めた吹き溜まり点ブロ隠して行く手をはばむ
年が明け米寿の祝い待つ母の入院したとの深夜の電話
空梅雨の眠れぬ夜のラジオから明日の天気にほっと一息
鬱陶しい梅雨空払うさわやかなメロディー流すオカリナの音は
連休にふと気がついて里帰り米寿の母の肩を揉む
五月晴れ苦手な授業眠くなり励ますようなカッコウの声
理療教育課程三年 健夫
窓越しの秋刀魚の臭い故郷はコンロの中の赤々な炭火
ボール追う少年の背に差す日差し仄かに暖かき心和らぐ
風の中雑踏の街帰り来て音声信号の何ゆえ悲し
窓越しに我に励まし与えしは夜更けてなける牛カエルの声
一般リハビリテーション課程 敏幸
部屋のすみ毎晩聞こゆコオロギの声が私の子守歌なり
鰯雲浮かぶ空見て妹も雲を見上げているかと思う
我が部屋の窓の外には色付きしポプラの木の葉風に揺れたる
久しぶりに戻りし我が家は冷えこみて夜に幾度も目を覚ましけり
藤棚の下に落ちたる花びらを踏みつつ進む我が車椅子
幼き子までも我が身を思いやる椅子押し我を誘導する
連休の終わりて戻った寮の部屋窓の外にはハナミズキ咲く
学生の白衣着込みて歩きおりわが新品は大学にあり
朝はやくカーテン開きてほほえみぬ梢の緑が目に飛び込みて
理療教育課程卒業生 いく子
目耳悪しき病なれど長生きしてと子の言葉に我生きんとす
冬休み友は去り行きて我独り病室でクリスマス祝いぬ
手に触れたナース・ステーションに飾られたクリスマスツリーに祈りぬ
父と思いし老牧師の死を知れり我は今病の床に在りては
師の言葉に耳傾けし緊張が解かれる日も間近になりぬ
耳悪しき我に繰返し教えし師を生ある限り忘れてはならじ
国リハを我が家と思いし三年間明日は去り行く去りがたし我は
卒業式終えて住み慣れし居室よりわが歩み遠ざかりてきぬ
卒業式友と別れしこの居室に立ち入ることあるまじと思う
卒業式拍手を受けしわが脳裏に三年間の思いよみがえりてきぬ
聴力を失いつつも学びして免許証手にして言葉なくおり
国試まで「あと少しよ」と病む耳に励まし続け学び続けぬ
先生がわが手のひらに片かなをこれを読みて学びゆきぬ
もう一度生まれいずることあらばよき耳と眼でまた学びたし
学ぶはわが意思でありても難聴ゆえにつらきこと多かりき
理療教育課程卒業生 治子
柿一つひとつを友は新聞紙に包みて我に送り呉れたり
棟々に布団を叩ける音響く午後の日差しとなりたる頃に
来年は八十歳となる父の階降りて行く足音は軽し
指先に歯磨きチューブをしぼり出す移り来て今日は五日目の朝
球根は生きていたらし土の上に堅き芽確かに指に触れたり
老眼鏡をかけて我に読む夫それぞれに書かれし説明を
同窓会の名簿に我の不明とあるを夕べ友は電話かけくる
漸くに水洗便所がつくという十八歳まで過ごしたる街にも
朝顔の苗を我と共に植え娘はアメリカへたちてゆきたる
視力を失いて鍼を学びいる友の聴力も今弱りゆくらし
目と耳と病みつつ友は鍼を学ぶその様を知りたり
目を病みて耳を病みてもこの友のいつのときも穏やかなりし
三年間短歌クラブにともにいて耳を病む友と語ることなかりし
理療教育課程卒業生 規子
金色の稲穂は秋の陽を浴びて実りの時に友は嫁ぎぬ
夕風に金木犀の香を浴びて見つむる空に光る新月
職員 太田浩之
逢うたびに寂しさ覚うこと知らず微笑みくれし従妹は嫁ぐ
海を見るわれに近づき話しくる少年の頬陽にやけており
潮風のなかに出逢いし少年は白き靴にてかけて去りゆく
潮騒の町に生まれし少年よきみを信じて歩みつづけよ
胸さわぐ胸膨らますことなくも父逝きてこの一年は過ぐ
離れ住み憎みしものをわが心近くに思う父逝きてより
きみ暮らすとひとのいう町過ぎゆきぬ高速よりはあかり広がる
わずかなる勇気の湧きぬカーテンの間より朝の陽差しきたれば
海の上に落ちて消えゆく淡雪の音なきさまよ哀しみに似る
着古しのコートにはわがイニシャルのあり喜びて着る母の背よ
大河原惇行
雨は晴れ柳の梢も西の方に雲はかなしくかがやきて去る
橋わたり再び空を仰ぎたり柳ゆれ鳶の影はゆたかに
芝生青く雨にやはらかき時なりき下の橋より歩みをかへす
立ちどまり夜の白雲われは見て十字架に向ひ橋わたりきぬ
柳一木窓にこの夜ひらめけり響きともなれひらめきならず
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