いぶき 第21号(2000年)
本文へジャンプ 平成12年度版

理療教育課程一年  平三郎
はらはらと落ちる木の葉よセンターで思うはわが身学ぶ歳月

理療教育課程一年  安身
夏の日のケヤキ並木にせみ時雨今は亡き母を思いつつゆく

理療教育課程二年  和幸
わが部屋に幸せの鳩舞い降りて心ときめく和やかな日よ

理療教育課程三年  清
夜明けまでひんやり風のながれ来て虫の鳴く声止やまずいるとき
電車にて席を譲られ窓越しにほほに差したる陽のあたたかさ
かおり満ちふさふさたるる藤の花愛しき人を思いて過ごす

理療教育課程三年  豊延
紺碧の空を映せし芦ノ湖に白きクルーザー音立ててゆく
彼岸花咲き始めれば遠き日の亡き人たちを思い出させる
並木道落ち葉を踏めば思い出す幼き日々をふるさとの友を

理療教育課程四年  寿彦
寝苦しき暑き夜をば重ねおり気づけば虫の鳴く音聞こえて
車椅子兄貴を乗せて外に出る越後の空は雲低くして
(*)芽吹きせしぶどう棚の向こうには曾孫までいる鯉のぼり舞う

理療教育課程四年  啓三
富士の山見えぬ足もと踏みしめて登りつめれば広がる大地

理療教育課程四年  淑郎
ピピピーと鳥の鳴き声聞こえくる寮の中庭春を伝えて

理療教育課程五年  朝子
悔いのない命選べと聞きすます風にまかせて散りゆく落ち葉
めぐり会う一人のために明日ありと赤いルージュをひいてみる
学ぶこといくつもありき教科書を胸に抱きしめためいきばかり

理療教育課程五年  永久
ふるさとを訪ねし我を迎えたるわが友の声老いて聞ゆる
ラジオより桜前線流れきてわが町吹上いつと気になる
真新しい墓標の名を読む妹の声耳にして友の死を知る

理療教育課程一年  律子
スパシフィラムあなたの花と友はいうされど今われ凛と立ちたし

理療教育課程一年  壽
ぼんやりとひまわり見えた夏の日に燃える黄色に命を見ていた
せみ鳴けるふるさとの森ただ歩く三療学ぶ初めての夏
まだ見えるいくらか見えるわれの目でこれからのこと考えている

理療教育課程一年  博行
紫陽花の青震わせし梅雨寒の窓に指にて「友」と書きている
幼かりし日の友の死知らされてあぐらかくわれは十字を切りぬ
君去りてなお瞼裏に残り居る沙羅双樹より白きうなじよ

理療教育課程二年  清
冬休み日ごろの雑踏抜け出して心静かに短歌読むわれ
学期末試験を終わりまた思うがんばりきれずまた悔い残る
寒さにもこの幾日かどことなく春の息吹を知る日だまりに

理療教育課程二年  美枝子
嬉しさは探りて歩む白杖の先に広がる枯葉の匂い
まな裏に残りしものみな美しく視力なきいま歓びに似て
ひとは優し吹く風優し春の日を母の年超えし私の誕生日

理療教育課程二年  斉
あに知らんや目を病みひとり電車にて按摩習いに通うわが身を
灯にひかれ網戸にあたりて死ぬセミの庭には涼しき風吹く
机にてほほづえつけば金木犀部屋まで香りて在りし日を偲ぶ

理療教育課程三年  美佐
あの雲と同じ流れで時を生きあなたのそばにただいたいだけ
そこにいるあなたを感じ一歩また一歩ただ私は歩んでゆく
迷わずに未来へ進む道あれば人は誰でも進むだろうに

理療教育課程修了生  好明
五十路過ぎ触れる点字に汗ばみて目的ひとつ按摩師の道

理療教育課程卒業生  誠
空間と角度をみつつ運ぶ筆上達遠き書を楽しむ
我はいま世の歯車のどこにいる時はすぎゆく学べる三年
賛美歌の波にゆれる我が心ひたすら神に合掌するなり

理療教育課程卒業生  治子
亡き父と笑い転げておりたりと夢より覚めてしばしいるなり
新しく作りなおしし電話番号に今年は打たぬ友一人あり
細く細くなりし視力を保つため朝々薬を飲むという友

理療教育課程卒業生  一男
国リハでずっと学んでいたように学んでいたい卒後十年

講師  坂本守正
みづからに何に沈むのか齢わかく顔伏せる君おもてあげなさい
せいいつぱい咲きたる花はいくらかに傾げてゐたり雨の降りつつ
数日を出席せざる学生ありはりえんじゆの花夏日はつよし

講師  岡村文雄
いつしかにプレクストークの途絶えおり暗きしじまに独り目覚めいて

職員  太田浩之
曇りゆく空に憂いあり母校なる教壇に立つ試験官として
雪原を新幹線の窓に見る友よかたくなに生きてゆくのか
メールには漢字とかなの並びいる点字を文字と生まれしきみの





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