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理療教育課程二年 潔
新年を迎えて想う故郷の肩をもむ手に母の顔浮かぶ
理療教育課程二年 常男
秋の日を落ち葉を踏みて散歩する友と二人で朝日の中へ
理療教育課程三年 朋行
さざなみの音の聞こえて夏来る月の明かりよ輝く影よ
清涼の川の流れのほとりには明るい笑顔咲き乱れけり
理療教育課程三年 はじめ
入所してはや三年の夏休み一年生の教科書を読む
人の声に朝は目覚めし聞き入れば幸せそうな笑い声する
ざわざわと風が木々の枝揺らす音白杖止めればわが頬に吹く
理療教育課程三年 安身
病む人の痛い辛いの訴えに揉みいるわが手思わず止まる
理療教育課程三年 功
模擬試験間近に控え先輩が咳き響かせて食事をする朝
初めての臨床済ませ指を拭きほっと嗅いでるアルコール臭
自分なり患者のカルテ記しながら感じ始める理療家の自覚
一年を六十半ばのわが友が耐えて学びて今日の喜び
友らとともにグランドまでの道のりをアスファルト燃ゆる匂いの中を
理療教育課程三年 馨
梅雨空の重き空気の空の下しばしの光鯉を照らせり
荒れる波夏は夏の日人ごみの荒れる心を洗う波かな
ひとときの梅雨の谷間のその時に焦る気持ちを思い留むる
理療教育課程四年 和幸
今にでも降り出しそうと友の言う玄関出ずればしずくがあたる
試験前授業のテープ聞くうちに朝となりしか小鳥の声聞く
理療教育課程四年 智子
流されず流れのままに生きるには言葉以上に難しきかな
思い馳せ過去と未来と現在と眠れぬ今はもう夜明け前
雨の中日々鮮やかな紫陽花は染まりつつある思いのようで
向日葵は切ないくらい眩しくて咲き続くことあなたは気高し
理療教育課程五年 清
窓越しの差し込む光に誘われて背筋首筋ガラスにもたれ
虫の音もさえずる小鳥も今はなく枯れ葉の滑る音聞え来る
理療教育課程二年 博行
点滴の落ちゆく音の頼りなく遠く聞えるもがり笛に似て
逝く夏に抗うような風の中海辺でまたたく線香花火
コバルトのサンタモニカの海遠く九月の雨に震えし身には
理療教育課程三年 一樹
見えずとも心で見える魂よ人の心に震え温もれ
寒い夜ベランダに出て電話する寒さを忘れ家族と話す
理療教育課程三年 律子
わがことに触れて語れる母の手をわが手に包めば思いあふるる
幾重にも積もりし落ち葉の重なりを踏めば優しき音がする
秋の夜の胡弓の調べは慕情なりともに聞きし日遠くなりたり
冬の朝磯の香りのふるさとにまた帰り来て聞く町の声
満開の桜の花を見せたしと声に弾ませてわが手引く友
ひとつ身に多くの病もてる友薬の多さを我に言いけり
帰り来てみどり児の泣くその庭で遊びし子今は母になりて
気遣いて互いにものをいわぬまま相づちだけの短き電話
各々の秘めたる思い交し合う過ぎし日のことこれからのこと
理療教育課程三年 壽
もう少し元気でいてくれ母に向け無理な注文するわれがいる
母の死ぬその日を思いその時のわれを考えるこの帰郷です
淋しいです淋しいですか淋しいです枯葉を踏んで歩く夜です
人気ない廊下に響く初めての臨床室の鍵開ける音
生活訓練課程 洋子
学ぶことときめきと歌う人がいてわがゆく道にもあらんと願う
新しき文字の会うたびわが心ふるえるときめき指いとおしむ
金色の匂いと小花がふりかかる時間よ止まれ秋の夕暮れ
運動会遠くに歓声聞きながら見えない空の青さを思う
初めてのメール受信にどきどきする機械の音に友の声聞きて
理療教育課程卒業生 壽彦
海の日を境に浜はにぎわいて呼び込みの声一段と高し
今日もまた街なか焦がす太陽に一番電車の遮光幕降ろす
目は高知にあり雨風はわれをたたきて一日過ぎぬ
道實の千百年の生誕を祀るという藤花一つなし
理療教育課程卒業生 治子
わが視力失いしことも支えなりあしたの空にカッコウの声
日本語を一つ覚えて「おばあちゃん」と受話器を通し聞く孫の声
アメリカに住む子へ今の思いは言わず二千一年秋深みゆく
ボタン押せば作動すると教えられ触るるボタンは小さし平たし
われの押す小さきボタンは窪みなく飛び出ずるなく音出ずるなし
この人の子に生まれきて六十年階登りくる母の靴音
理療教育課程卒業生 美枝子
灯り消しホタル籠覗く幼き日の闇は懐かし闇に生きれば
音だけの花火にたどる思いあり夜更けの庭におしろいばなの匂い
めしいてより見出せしこと多くありひと日ひと日を生きゆかんかも
小さき背の嫗の生き来し方を思い手のひらに包みて柔らかく揉む
結び目の解きづらき冷たき朝は骨病む友の指先を思う
講師 坂本守正
チョークにて一語一文字を腕伸ばし大きく書かんこの朝もまた
届きゆくは吾が書き進む音のみか黙する者の動かざるあり
白墨の粉拭いつつ歩みをり己がこころの頼み少なく
みな等しく生きるにはあらずと知るまでの現実といふはこころ難し
この後何植えるんですか眉しろき農夫にわれは声かけてみる
しばらくは空けたままだね軟らかな耕地の端をながく見ていつ
職員 太田浩之
いつの間に傍にありしかいつよりか離れゆきしや病みゆく妹
西の空輝き増して雲はゆく言葉なきまま妹といる
枯れかかる秋桜の茎一輪の花をささえてこの朝の思い
大河原惇行
凡庸に生きて凡庸をいつくしむ心に遠きこの五年か
ここに友ありて振舞ふわがままをわが生としてこの暑き日を
何故に死にし目高か昨日に続く朝の戸惑ひもひとりなるもの
ここに一つ予感をたのしむ余裕あり石むらにたゆたふ光もさりにし
堪へゐるは己のみならず暑く日のすでに夕ベか柳散りつつ
さらに高く明けてしばしの雲のいろ紅の極まる時も過ぎむに
立ちはだかる何か又何かこの今に凌ぎて生きると言ふにもあらず
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